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[第7部・神楽観賞の一考察]
森脇巌男(枝宮八幡神社名誉宮司)
神楽競演大会の評価基準
神楽競演大会の標準的な審査表(一例)[Adobe pdf file]


月日のたつのは早いもので、
私たちが神楽競演大会という言葉を聞き始めてからもう44〜5年になる。
前述の通り、近年各地で競演大会が行われるようになったが、
この競演大会(以下競演という)は昭和22〜3年頃に出来た言葉で、
紆余曲折の内容をもった大会でもある。
当時はいろいろな演芸会が極度に流行しており、
昔ながらの神楽もこの時節は演芸であった。
以前から腕に覚えのあった神楽団数団体が出演し、
「優秀神楽大会」と銘打ってここに競演なるものが誕生した。
そのうち初めて見受ける神楽舞の演出
(高田郡を中心とし、戦後新しく演出された神楽)を持った神楽団の出演も出始まり、
優勝旗はいつも初めて見受ける神楽団が受領することとなり、
そのため以前からの神楽団は出場を辞退するようになっていた。
しかしそれでは保存と振興の意義に反するので、
審査規定を制定し、今までの見慣れた伝統的神楽を「旧舞」と名付ける一方、
当時初めて現出した神楽を「新舞」と称した。
いわゆる、新旧2本立ての審査を行うこととなったのである。
これは芸北神楽の研究家新藤久人先生(故人)が中心となって発足した。
さて、演舞を評価することはなかなかの難行苦行である。
神楽を愛好と保存・伝承のために一応の尺度をもって評価し、
その尺度評価点が演舞者に的確に"跳ね返って"こなければならない。
演舞者たるものはこの跳ね返りを尊重し、かみこなして反省努力しないと、
保存・伝承も危ぶまれるというものである。
評価にあたり、数字点数による処理方法は算数的評価の一便法であって、
ただ単に評価点数に基づく序列判定の方法にすぎない。
評価の狙いは、評価に係る評価内容の具体的論評(跳ね返りの言葉)を
神楽団員が真向に得ることである。
その評価の機会は次の3方法となる。
1.自己反省(個人評価)---自分の演技を個人で評価、反省して自己研鑽に資す
2.集団反省(神楽団評価)---自分の演舞について神楽団員の評価より反省点を得る
3.特定機関反省(審査員評価)---競演などの審査員制度の評価による反省
3の特定の機関が評価する場合においては、
出演団体に概ね次のイ・ロ・ハ・ニ・ホを連絡しておくことが大切である。
イ.出演者は表1の評価視点を平素より、研鑽修行をしておく(いわゆる評価視点の把握として)
ロ.それぞれの出演神楽団(神楽団員)は
出場直前まで100点(配分点数どおり)を持っているわけで、
それが演舞中に、何かの調子によって失点するのである。
故に「何点稼いだか」ではなく「何点使ったか」の評価である
(すなわち、作法の尊重、修練の反省である)
ハ.開会式・閉会式には、せめて神楽団の代表者は
それぞれ参列して当日の大会の運営を再確認すること
(儀式の尊重と団員のつとめとして)
ニ.開会式に臨み参加神楽団員の「宣誓」を行い、大会の円滑な運営と尊厳につとめること
採点の場合、同点が生じても別に難問ではない。
あるいはそうした結果が望ましいのかも知れない。
同点の場合の処理は、その種目に出演人員の多い方が上位で、
さらに極めるとなれば、評価視点において希望する事柄や注意事項を有する方が下位になる。
よく観衆の拍手の鳴り方で優劣を決めるということを耳にするが、
拍手は拍手、審査は審査である。
もし観衆の拍手で決定するのであれば、当日5名くらいの実働人員(審査員)は不要である。
賞賛と希望と、さらに保存と振興の祈念を総括した感銘度を
どのようにして神楽団に跳ね返らすか---拍手の音では到底できないのは明白である。
審査員はその大会に臨んで、方針を始めとし、
成すべき手段が不明で不安の内にも自分ながらの評価を下して終わるのであるが、
私自身審査員の審査方法とその準備について、歩んできた事例があるので参考に供したい。
大会当日の出演の一覧表は、2〜3日前には送られてくる。
それによって審査員は、諸準備を行う。
表2=審査評(個人)は、ある程度必要枚数として審査員で準備しておき、
郵送されてきた出演の一覧表どおりに記入する。
もちろん、評価視点と得点は当日審査しながら記入するのである。
表3は新舞、旧舞の部別にした編成表である。
競演終了後の審査員会議において新旧別に発表される得点を記入すればよい。
本表によって最高得点は即座に発見できよう。
表4は、新旧ごとの授賞関係の記録一覧表である。
やはり本表も事前に数枚印刷しておく。
また競演大会においては、個人賞がある場合もあるので、そのための記録表(表5)も必要となる。
以上の準備をしておけば、大会当日、見ながら評価し評価しながら観察し、
さらに大会後これによって指導もできようというものである。
なお、評価表の評価視点や配分点数に差異はあってもその点だけの留意事項であって、
概ねどの競演大会にも共通する仕組みになっている。
よく審査員になった人で「何をどのようにすればよいか」とお尋ねになるが、
私は以上の表を作っておいて、これを記入されたらといいたい。

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