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[第5部・神楽の装い]


よく神楽競演大会などで「衣装で一本取る」といわれるが、
近年、豪華な衣裳が多くなってきた。
一着で百万円以上の衣装も多くなっている。
もともと神楽の衣裳は、全国的に見られるように
草花や単一の抽象模様などを染めた地味なものであった。
しかし、石見神楽においては能舞(劇的な舞い)の進展に伴い、
龍・虎・鬼など具体的なモチーフが衣裳に現われ、
更に金糸銀糸の刺繍(ししゅう)に変わったことは、
単に衣裳が豪華になったということに止まらず、
まさに観せる舞いに変わったことにつながる。
衣裳の変化は舞台空間や演出全般にも大きな影響を及ぼしてきた。
舞台は「神楽殿」から、舞人が充分に大きく舞える広い「スペース」へ、
舞台の化粧幕は多色の染め抜きや刺繍されたものから、
照明を生かして舞人が映える色で無地へ変化している。
ただ何より大切なことは、
演目の「主旨」や「いわれ」などの考証を充分検討して、
衣裳や面の構成をしなければ、
ただ派手さだけが残る味のない神楽となる恐れを含んでいる。
豪華になった衣裳を生かすことは、
舞台空間や演出に変化をもたらすと同時に、
一度に多くの観客を楽しませる方向に発展しているといえる。


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